エンディングノートを書こう 残された家族への思いやり
人生の終盤について考える時間は、誰にでも訪れる可能性があります。
ですが、「何をどう考えればいいのか」「家族に負担をかけたくないけれど、具体的にどうすれば?」と、漠然とした不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな時に役立つのが、ご自身の希望や大切な情報、そしてご家族へのメッセージを書き留めておくエンディングノートです。
これは「終活ノート」とも呼ばれ、未来のご家族への配慮と、ご自身の安心のために大きな役割を果たしてくれます。
エンディングノートとは?人生の最終章に備えて自分の希望を書き残すノート
エンディングノートとは、ご自身の人生の最終章をどのように迎えたいか、どのような手続きや希望があるかを自由に書き記すためのノートです。
これは特定の形式が決まっているわけではなく、市販のノートや自作のものでも構いません。
一番大切なのは、ご自身の「こうしたい」という意思を明確にすることです。
例えば、もしものことがあった場合の連絡先リスト、預貯金や保険に関する情報、そして最も多くの方が気にされるお葬式やお墓に対する希望など、多岐にわたる内容を網羅できます。
私ども安楽院で終活セミナーを開催させていただく中で、多くのお客様が「何から手をつければ良いか分からない」とおっしゃいますが、このエンディングノートは、まさにその第一歩として最適なツールと言えるでしょう。
書き始めることで、ご自身の現状が整理され、具体的に考えるべき点が見えてきます。
日頃はなかなか話し合えないデリケートな内容も、文字にすることで家族に伝えやすくなる効果も期待できます。
どのような項目を書き出すか迷う場合は、市販のエンディングノートを参考にしたり、セミナーで配布される資料なども役立ちます。
「終活ノート」とも呼ばれるその目的と役割
エンディングノート、別名「終活ノート」の最大の目的は、ご自身の意思を家族に伝え、もしもの時に遺された家族が困らないように備えることです。
突然の別れは、残された家族にとって計り知れない精神的な負担となります。
さらに、故人の意思が分からないまま、様々な手続きや決定を迫られることは、その負担をさらに重くします。
終活ノートには、ご自身の病気や介護に関する希望、延命治療についての意思、財産に関する情報、そして葬儀やお墓についての希望などを具体的に書き記すことができます。
これにより、家族は故人の意思を尊重しながら、手続きを進めることが可能になります。
また、これまで触れてこなかった家族関係や友人へのメッセージ、さらにはデジタル遺産(パソコンやスマートフォンのデータ、SNSのアカウントなど)に関する情報など、幅広い内容を盛り込むことで、よりパーソナルな「自分史」として、家族への大切な贈り物にもなります。
私どもの経験上、エンディングノートがあるだけで、葬儀の打ち合わせが非常にスムーズに進み、ご家族が故人様のお見送りにより集中できるようになるケースを多く見てきました。
これは、まさに終活ノートが持つ大きな役割の一つです。
法的効力はないが家族への大切なメッセージになる
エンディングノートに書かれた内容には、遺言書のような法的な効力はありません。
しかし、だからといってその価値が低いわけでは決してありません。
むしろ、法的拘束力がないからこそ、形式にとらわれずに自由に、そして率直な気持ちを綴ることができるという側面があります。
遺言書では書ききれない、あるいは書きづらい個人的な願いや、家族一人ひとりへの感謝のメッセージなど、心のこもった言葉を残すことができるのがエンディングノートの魅力です。
例えば、「この洋服は〇〇さんに譲ってほしい」「旅行の写真をまとめたアルバムは皆で見返してほしい」といった細やかな希望や、「お父さん、お母さん、ありがとう」「子供たち、幸せになってね」といった直接言葉にするのが照れくさい感謝の気持ちなど、遺される家族にとっては何よりも大切な宝物となります。
もちろん、葬儀の形式や希望するお墓について具体的に書いておくことは、家族が判断に迷った際に大きな助けとなります。
法的な効力はないとしても、そこには書き手の明確な意思と、家族への深い愛情が込められており、遺された家族が故人の最期の願いを知り、安心して送り出すための道しるべとなるのです。
エンディングノートは、単に情報を書き記すだけでなく、ご自身の意思や願いを未来へ託す大切な手段です。
では具体的に、どのようなことを書いておくと、ご家族にとって役立ち、ご自身も安心して過ごせるのでしょうか。
ここでは、エンディングノートに含めるべき主な項目についてご紹介します。
これらの項目を網羅することで、もしもの時にもご自身の希望が尊重され、残されたご家族の手続きの負担を大きく減らすことができます。
書き始める際は、一度に全てを完成させようとせず、気がついた時に少しずつ書き加えていくのが良いでしょう。
延命治療や臓器提供についての自分の意思
医療に関する意思は、エンディングノートの中でも特に重要な項目の一つです。
もし、ご自身が病気などで意思表示ができなくなった場合に、どのような医療行為を望むか、あるいは望まないかを明確に記しておきます。
特に、延命治療についてどう考えているのか、可能な限り自然な形で最期を迎えたいのか、それともできる限りの医療処置を受けたいのかなど、具体的な希望を書いておくことが大切です。
また、臓器提供や献体についても、ご自身の意思があればその旨を記載しておきましょう。
これらの意思は、ご家族が非常に悩むことが多いデリケートな問題です。
エンディングノートに事前に記しておくことで、ご家族が難しい判断を迫られる際の精神的な負担を軽減し、ご自身の尊厳を守ることにも繋がります。
かかりつけの医師や信頼できる家族と、これらの内容について事前に話し合っておくことも、エンディングノートをより有効にするための重要なステップと言えます。
葬儀の希望や連絡してほしい人のリスト
ご自身の葬儀について希望がある場合は、エンディングノートに詳しく書き記しておきましょう。
例えば、葬儀の規模(家族葬、一般葬など、安楽院でご提供している様々な形式から選んで希望を書いていただいても良いでしょう)、宗教・宗派、棺に入れてほしいもの、流してほしい音楽など、具体的な希望を伝えることで、ご自身の個性や人となりが反映されたお見送りを実現できます。
また、訃報を知らせてほしい人のリストを作成しておくことも非常に役立ちます。
現代は連絡手段が多様化しており、誰にどのように連絡すれば良いのか、ご家族が把握しきれていないことも少なくありません。
親戚、友人、仕事関係など、関係性ごとにリストアップし、連絡先をまとめておくと、ご家族の負担を大きく減らすことができます。
私たちの経験からも、事前に故人様のご交友関係が分かっていると、スムーズな連絡が可能となり、結果として故人様を偲ぶ方々が多く集まる温かいお見送りに繋がっています。
財産や貴重品の一覧、保険や年金などの情報
エンディングノートには、ご自身の財産や貴重品に関する情報をまとめておくことも推奨されます。
預貯金のある金融機関名と支店名、証券や不動産の情報などを一覧にしておくと、ご家族が遺産分割や相続手続きを進める際に非常に役立ちます。
また、自宅に保管している貴重品(宝石、骨董品など)の場所や、思い出の品についても記しておくと良いでしょう。
さらに、加入している生命保険や医療保険、火災保険などの保険情報、公的年金や個人年金に関する情報なども記載しておくと、手続きがスムーズに進みます。
これらの情報は、ご家族が把握していないことも多く、もしもの時に探し出すのに大変な労力がかかる場合があります。
エンディングノートにまとめておくことで、ご家族は必要な情報にすぐにアクセスでき、煩雑な手続きを滞りなく進めることが可能になります。
デジタル資産(パソコンのデータ、スマートフォンのロック解除方法、SNSアカウント、オンラインサービスのIDやパスワードなど)についても、どのように整理・処分してほしいか希望があれば追記しておくと、現代においては特に重要な情報となります。
家族へのメッセージや感謝の言葉
エンディングノートの中で、法的な効力はないものの、最も価値があると言えるのが、ご家族へのメッセージや感謝の言葉です。
これまでの人生を振り返り、家族一人ひとりへの想いや、伝えきれていない感謝の気持ちを率直に綴ってみましょう。
改めて文字にすることで、ご自身の気持ちが整理されるだけでなく、遺されたご家族にとってはかけがえのない心の支えとなります。
「あの時は言えなかったけれど、本当は感謝している」「〇〇と一緒に過ごした時間が一番の宝物だった」など、飾らない言葉で伝えることが大切です。
また、ご自身の人生哲学や、これからの家族にどう生きていってほしいかといった願いを込めるのも良いでしょう。
エンディングノートは、未来のご家族に向けた最後の手紙でもあります。
ここには、手続きや情報だけでなく、長年培われてきた家族の絆や愛情が込められます。
私どもは多くのご家族と接する中で、故人様が残されたメッセージが、どれほどご遺族の心を温め、前向きに生きる力になっているかを実感しています。
ここからは、実際にエンディングノートを書き始めるにあたってのいくつかのポイントをお伝えします。
難しく考えすぎず、ご自身のペースで取り組むことが何よりも大切です。
エンディングノートの書き方のポイント
エンディングノートには法的拘束力がなく、決まった形式もありません。
だからこそ、ご自身のライフスタイルや性格に合わせて、自由に作成できるのが良い点です。
まずは市販の様々な種類のエンディングノートを見てみるのも良いですし、ご自身でノートを用意し、気になる項目から書き始めても構いません。
全てを埋めようと気負う必要はありません。
大切なのは、今日から少しずつでも始めてみることです。
そして一度書いたら終わりではなく、年齢や状況の変化に合わせて定期的に見直し、必要に応じて追記していくことが重要です。
加筆修正を重ねることで、より今の自分自身の気持ちに合った内容に更新されていきます。
書き終えたエンディングノートは、ご自身がもしもの状態になった際に、ご家族がすぐに見つけられる場所に保管しておくことが肝心です。
引き出しの中や、金庫など、保管場所をご家族に伝えて共有しておきましょう。
存在を知っていても、どこにあるか分からないのでは意味がありません。
私ども安楽院にご相談にいらっしゃる方々も、保管場所の共有についてよくご質問されます。
見つけやすい場所を決めて、大切なご家族と話しておくことが、エンディングノートを有効活用するための最後の、そして最も重要なステップです。
エンディングノートを書くことは、未来への備えであると同時に、今をより良く生きるための行動でもあります。
エンディングノートを書こう 残された家族への思いやりのまとめ
これまでの内容を振り返ると、エンディングノートは単なる事務的な記録ではなく、人生の最終章をご自身の意思でデザインし、大切なご家族への深い配慮を示すためのツールであることがご理解いただけたかと思います。
書く内容は人それぞれですが、医療や介護の希望、葬儀やお墓について、そして財産に関する情報などをまとめておくことで、遺されたご家族が直面する多くの困難を減らすことができます。
何よりも、ご自身の気持ちを整理し、残される方への感謝や愛情を伝える最後のメッセージとなる点が、エンディングノートの最大の価値と言えるでしょう。
完璧を目指す必要はありません。
まずは手に取り、気負わずに書き始めてみてください。
そして、その存在と保管場所をご家族と共有することが大切です。
エンディングノートがあることで得られる安心感は、ご本人様だけでなく、ご家族様にとってもかけがえのないものとなります。
安楽院では、皆様の終活をサポートするためのセミナーや個別相談も承っております。
ご自身のペースで、後悔のない未来への準備を進めていきましょう。